【Not UO】映画「パルプフィクション」より

2017年11月4日


この前のシーンでブッチが「君のホンダを借りるよ!」と言って乗り込んで行ったのがファビアンの愛車の2代目シビック、いわゆるスーパーシビック。名車ですよね。

なんということもないのですが、東京モーターショーでふとこのシーンを思い出したので貼ってみたくなりました。

バイクじゃないぜ、チョッパーだぜ、というセリフもお気に入り。

【Not UO】Power of Love 聴き比べ

2017年1月15日

いつかやりたいと思っていたまとめ。

元祖ジェニファー姐さん。声量に余裕があって聞いててしんどくない。うまい。

ドイツの歌姫ヘレン・フィッシャー。クラッシックを歌える実力もあるし、きれいだしかわいくって日本人ウケもしそう。

ご存知セリーヌ・ディオン。ヘレン・フィッシャーは基本に忠実な優等生、セリーヌはある意味型破り。

アンジェラ・アキのお母さんじゃないよ。世界で最も、レコードの売り上げが多い歌手の一人、その枚数2億3000枚以上ともいわれるナナ・ムスクーリさん。後光がさしてる。

47歳の若さで世を去った歌姫、ローラ・ブラニガン。

こちらも故人。テレサ・テン。さすがですね。

どれも素晴らしい。

Ultima V: Lazarusより “キャプテン・ジョンの物語”

2016年12月21日

Ultima V: Lazarusとは、当時のUltima VのファンがチームLazarusを立ち上げ、Dungeon Siege 3D RPGエンジンによって同作をリメイクしたものです。いわば、二次創作にあたりますが、プロ、セミプロ、ボランティアたちが集まって創り上げた同作は、Ultima Vとはまた違った位置づけで確たるポジションを築いています。(ていうかUOの現運営よりも人数多いじゃん)
ジョン船長のエピソードは、ウルティマ オンラインにおいても“Wreck of Ararat”としてリバイバルされていますが、Ultima V: Lazarusも、“Wreck of Ararat”も、登場人物の設定や呼称は本家とはまた異なったものになっています。そういう細かい話とか、どちらがより優れているかとか、そういうことではなく、とにかく読み物として面白いので読んでほしい!
そんな願いをこめて、Ultima V: Lazarusのフィクション、“キャプテン・ジョンの物語”の拙訳を掲載します。(もう一つのフィクション、“The Fall of Blackthorn”は着手未定)細かい修正等を入れたらすっかり放置したままのトップページからのリンクはそのうちやる……かもしれない。
原文はこちら
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“何年もの間、彗星や燃え立つような星雲は、迫り来る不運の予兆として天空を切り裂いて来た。それらは暗黒の王モンディンが出現する直前に現れた。またそれらは魔女ミナックスの支配を告げ、地獄の申し子エクソダスによってもたらされる危機をも予言した……。そして今、私たちが平和と恵みのうちにいる間、彗星はふたたび巡って来たのである。”

~ ブリタニア天文史からの抜粋
ライキューム、サー・ジョン著
137年頃

CHAPTER 1
夏至前夜

ブリタニアの空の下で始まった旅で生き残ったのはたった二人だけだった。
そして今、私は一人だ。

* * *

6/18/137
私たちは明日ブリタニアへ向かって出帆する。早すぎることはないだろう。私たちは“絶望の入り江”から遥か沖に停泊していたが、私はなぜこの海がそのように呼ばれるのかを理解しつつあった。ここは人の魂を消耗させるのだ。おそらくそれがこの町の通りという通りが貧しい者とホームレスであふれる理由なのだろう。献身の町、正しくはミノックと人はその町を呼ぶ。

しかし文句は言うべきではないだろう。1ダース以上の人々が私の船、アララト号への乗船を予約し、誰もが夏至–大評議会とフェスティバルの開催までにブリテインに到着したがっていた。夜毎天文学を学んで過ごす孤高の魔法使いであるスーテック以外、ほとんどは身元のはっきりしない者たちだった。彼のように若くして尊敬を集める魔法使いを乗船させるのは名誉なことだ。

私も早くブリテインに到着したかった。シーサーペントとの遭遇によるアララト号の損傷を修理したとしても、フォリーナに贈る指輪を買うための十分なゴールドをねん出することができた。私は彼女にプロポーズする夜を想像する。彼女と私は船の舳先にいる。私は指輪を掌に乗せ、ひざまずくだろう。夏至の月は私たちの頭上で星々を灯しながら輝くだろう。

* * *

「私の名はジョンだ。船長だ。」

シンプルな自己紹介だったが、私はアララト号を購入して海に出た最初の日以来これで通して来たし、街灯が点る中、辛抱強く待ち続けたその男にもそのようにした。彼は背が高く、シャツと袖の盛り上がりにも関わらず、彼の顔は予想を裏切ってほっそりしており、それと同じくらい彼の服装も彼の雰囲気を損なっていた。彼のシャツは緑と黄色の縁取りがされており、色褪せたオレンジ色のキャップが彼の藁のような色の髪の毛の上に乗っていた。私はタラップの端に降り立つと彼をつぶさに観察する構えを取った。

「一等航海士があなたが船を探していると言うんだ。」私は言った。

彼はキャップを取って見事に熟練した会釈をして見せた。「お会いできて良かった。キャプテン・ジョン。私はアスタロル、町から町へと渡り歩くつましい吟遊楽人です。つい先月、ユーのドライデン判事の裁判で興行して来たばかりなのです。ここ数週間は貧しい、気の毒な人々のために演奏して来ましたが、そろそろブリテインへ行こうかと考えていたところ、あなた様のご立派な船が私を連れて行ってくれるだろうとお聞きしたのです。」

アスタロルはそう言って笑い、闇に紛れていたマンドリンが彼の手に握られた。「ああ! 私はゴールドのほとんどを町の南のはずれで施してしまった。あなたに捧げるものは数々の物語と歌しかないのです。」彼はそう言うなりゆっくりとした厳かな音色を奏で始めた。マンドリンの音色が早くなって行く。「かくも不思議な物語と歌よ! 聞け、見知らぬ土地からの冒険者がいかにして三悪に支配された暗闇を照らしたか! 聞け、ロード・ブリティッシュに謀反を起こし、世界の果てに人々を追いやった狂気の魔術師アスタムの話を! そして私自身の物語に耳を傾けよ、いかにして私がヒスロスのダンジョンに閉じ込められ、その深淵で遭遇したグレートアースサーペントの手を逃れたかを!」

背後から低く、甘い声が聞こえた。「あなたがヒスロスに閉じ込められていたかどうか疑わしいわ。ダンジョンは封鎖されているではありませんか。」

私は彼女の持つスタッフの魔法の光に照らされ、船の端から私たちを観察していたフォリーナに注意を向けた。漆黒の髪はエメラルドのティアラの下に流れ落ち、アーモンド色の皮膚に青い瞳が輝いていた。

アスタロルは彼のマンドリンを壊しかねんばかりに片膝をついてお辞儀をした。「ご婦人よ、あなたはまったく正しくてあらせられます。」彼は続けて言った。「ヒスロスへは行ったことがございませんし、グレートアースサーペントに遭遇したこともございません。しかしながらムーンゲートさながらにその美しさを優しげに、そして激しくまたたかせる女性を前にした男の見栄を、あなたはおとがめになるのですか?」

フォリーナは笑って私に言った。「この人を歓迎するわ。きっと楽しくなると思うの。」彼女は去り、スタッフの輝きが私たちのキャビンへと吸い込まれて行った。私は彼女が今しがたまで佇んでいた暗闇に目をこらし、そしてアスタロルが楽しげな輝きを宿した目でじっと私を見つめているのに気付いた。私は思わず吹き出した。「ご婦人がああ言っているのでね、乗船を許可しよう。だが君は私のクルーたちと乗客たちを朝、昼、晩と楽しませなければならない。わかるね?」

「もちろんでございます、我が船長!」アスタロルは答えながらマンドリンを肩に掛けた。私たちはいっしょに甲板を上った。彼はさながら古い友人にするかのように腕を私の肩に回して言った。「あなたに何とお礼を言えば良いかわかりません。私のような者の慈悲の精神は、この町でそう長続きしませんでした。これ以上ゴールドを家なき者たちに与えてしまえば、遠からず私も彼らと同じ貧乏人になっていたことでしょう。」彼は悲しげな微笑を唇に浮かべながら、ミノックの町に連なる屋根を振り返って一瞥した。「愛と慈悲か。」彼はくすくすと笑った。「それはとかく財布の中身を吸い尽くす。」

私はフォリーナのために買った指輪に思いを馳せた。「そうだね。」私も笑った。「その通りだ。」

* * *

6/19/137
私たちは朝方出航し、午後にはミノックの町を取り囲んでいたごつごつした岩山も南の水平線に吸い込まれて行った。私たちの行程はゆっくりとしたもので、とりわけ今日の風はフォリーナが彼女の魔法でそれらを引き寄せてさえつましいものだった。私はスーテックに彼の意識を天候に向けるよう懇願しても良かったが、彼は既に運賃を支払っているのであり、これ以上彼の好意に甘えるのは適切ではないように思えた。

私はアスタロルを疑っていたと認めねばなるまい。しかし今のところこの吟遊楽人は約束通り任務を果たしていた。彼は善良で人懐こく、とりわけ数人乗船していた子どもたちには優しかった。フォリーナもそんな彼との同伴を楽しんでいた。またいつか再び三人で会うことができたなら、私たちはかけがえのない友人同士になれたろう。

* * *

私たちがディード島の北東の沿岸をまわる頃には日は落ちていた。フォリーナと私はアララト号の舳先に立ち、彼女のスタッフの輝きが私たちを包み、アスタロルのマンドリンの音色がアララト号の船尾からかすかに聞こえる。

「“レディ・ナンの夢”よ。」フォリーナは囁き、吟遊楽人の奏でる音に耳をすませていた。「この歌を最後に聞いてからどれくらい経つかしら。」彼女は微笑んだ。「乗客たちは皆午後は彼の笛で踊って過ごしたのよ。船酔いした人たちですらそれを忘れてしまったくらい。彼は人の扱い方をよく知ってるの。」

「女性の扱い方じゃないのかね。」私たちのもとへ大股で近づいてきた戦士は大きな声で言った。編み込んだ髪とあごひげがヘルメットの下で紅く燃えていた。彼のチェインメイルを包むサーコートは炎のようなオレンジだ。彼は威嚇的に顔をしかめて私たちの前に立ちはだかるようにして歩みを止めた。彼が腕を組むと筋肉が浮き出し、そしてゆっくりと、彼は絶望的なため息をついた。「あんな敵には今まで出くわしたことがない。」彼はつぶやいた。彼がフォリーナを睨みつけると、彼の左右の眉毛が丸みを帯びた鼻の上でくっついた。「こりゃお前さんの仕業だろう。ジョンがあんたと出会ってから、俺は自分の腕っぷしを心配したことはなかったんだが。もう相当腕が鈍ってるこったろうよ。」彼の荒い鼻息に空気が揺れた。「ふん! スーテック、あれを乗せたのが大事にならなきゃいいんだが。彼は寡黙な男だ。だが静かなるメイジは恐ろしい。彼はまさに地獄から産まれたんだと言う噂がある。ミノックから来た連中は皆、彼がコブトスを呪文ひとつで開いたと信じてやがる!」彼は陰険な顔をして、アスタロルを取り囲む人々から離れて佇む謎めいた魔法使いのかすかな影を虎視した。「何もやらんで星を数えてるだと?」

「彼は地獄で生まれたんじゃないわよ、ノスフェンター。」フォリーナがたしなめた。「彼はライキュームの支配人ロード・シャリネスの生徒で天文学者サー・ジョンの良き友人よ。」
「俺には意味のない名前さね。」ノスフェンターは不満げに言った。「アスタロルにもよく言っておいた方がいい。あれはそのうち何かやらかす。」

「ノスフェンター、君はあの吟遊楽人が妬ましいのかい?」私は聞いた。

「俺は本当のことを言ってるだけだ!」ノスフェンターは怒りで頬をふくらませた。「グレートアースサーペントだと! そんなもんにやつが出くわしたらぎゃあぎゃあ喚くのが関の山に決まってるわい。賭けてもいい。それなのにあれをロード・ブリティッシュその人だと思い込んでいるご婦人までいるんだからな!」彼はそう言うとフォリーナを指差しながら私にウィンクして見せた。「背後に気を付けろよ、ジョン。彼女をかっさらわれるぞ。」

私は笑った。「私は背後に気を付ける必要はないよ、ノスフェンター。それは君の役目だからね。これまで君の剣は私を何度も救ってくれた。」

「そうとも。その通りだ。」彼は剣のさやからブロードソードを抜いた。暗い紫色の宝石が剣の柄で月光を反射してきらきら光っていた。「これはいい剣だ。」そう言いながら彼はふたたびそれを収めた。彼は厳かな目で私たちを見た。「良き友人たちから譲り受けた剣だ。心残りは我々三人はブリテインに到着したら離れ離れにならねばならん。」私の肩に手を置くと今までになくしっかりとノスフェンターは私を抱擁した。「俺がいなくなっても二人とも健やかで安全な旅を。」

「私たちのことは心配しないで。」フォリーナが優しく言った。「あなたがロード・ブラックソーンの軍に加わるよう要請されたことを誇りに思うわ。」

「誇りは徳ではないよ。」ノスフェンターは笑いながら言った。

「でも名誉だわ。」フォリーナは答えた。「ましてブラックソーンの陣営に加わるなんて一番の名誉だわ。ブリタニアの徳を守ろうという彼の目標を知らない者はいない。あなたがそれを誇らしく思わないなら私たちにやらせてちょうだい。」

そんな私たちの笑い声にまぎれ、あとの二人は私がすぐに笑うのを止めたのに気付くことはなかった。魔法使いスーテックが会釈の機会を捕え、その一瞬彼の視線は星ではなく、私たち三人に注がれた。ほんのわずかな間私たちの視線は絡まり、彼は私から目を逸らすかわりにまるで盗み聞きを見つかった者のように、天空の観察に戻る前にことさらにいかつい不機嫌な表情を浮かべて見せた。

* * *

6/20/137
風はまたもや私たちを裏切った。トリンシックの要塞の向こう側をようやくまわったのは午後遅くになってからだった。日が暮れてなお私たちを脅かす西側からの嵐はやむことはなかった。私はクルーたちに嵐を避けるために陰惨な空の下に横たわる死の沼に向かうよう指示し、果たして惨めな船長とクルーたちは呪われた島に船ごと乗り上げることになったのだった。

乗客たちもまた、その島々と伝説を警戒していた。おかしなことにアスタロルは血まみれの平原とマジンシアの廃墟の恐ろしげな話をすることで彼らを勇気づけていた。

すべてうまく行けば私たちは明日の午後にはブリテインに到着し、夏至祭にも十分間に合うだろう。

* * *

私を目覚めさせたのは嵐ではなく、船の傾きとそれに続いて聞こえて来た悲鳴だった。 私は床に投げ出された。体を宙に浮かせたフォリーナが驚いて叫ぶのが聞こえ、続いてオイルランプがすぐ横で粉々に割れる音が聞こえた。雷鳴が耳をつんざき、稲妻が光った。

ベッドや部屋の中のその他の家具は床に固定されていたので、私は足をつこうとその脚をつかんだ。ドアが乱暴に開かれたとき、状況を見定めるまでわずかな間が必要だった。激しい雨と明滅する稲妻がドアに寄り掛かる巨大な人の輪郭を浮かび上がらせていた。「ジョン!」ノスフェンターは叫んだ。「これは渦巻きだ、俺たちは渦に飲まれたんだ!」

船が再び傾いた。壁に叩きつけられ、私の肩にはひびが入ってしまった。まきストーブの掛け金は真っ二つに割れ、真っ赤な木炭が床に転がり出た。ノスフェンターの後ろで波が大きく膨れ上がり、デッキにぶつかっては砕け散っていた。どす黒い波は戦士をずぶ濡れにしながらキャビンに流れ込んで来た。木炭の小さな灯りはジュッという音をたてて息絶えた。

「In Lor!」フォリーナは叫んだ。彼女のスタッフの先端が青く燃え立った。冷たく白い光がキャビンを満たした。

「乗客は大丈夫か!」私はノスフェンターに叫んだ。「もしまだ甲板にいるなら船倉に放り込め!」裸足の足を押し寄せる水に取られながら、私は彼に近づいた。私はついて来ようとしていたフォリーナを振り返って「だめだ。」と言った。「ここを動かないで力を温存しておくんだ。君のヒーリングが必要になるだろうから。」彼女は頷いて後ろに下がり、まるでそれがいくらか危険を紛らわしてくれるとでも言わんばかりに寝巻をきつくひっぱった。ノスフェンターは私の腕をつかみ、私たちはいっしょに甲板に出た。

稲妻が空を切り裂く間も雨は激しく私の体を貫くように降り注いだ。「なんでこんなことになったんだ?」私は風に向かって叫んだ。「これを避けるように言ったじゃないか。」
「わからん。」彼は答えた。「だけど吟遊楽人は嵐は俺たちについて来る、つかまえに来ると言っていた。クルーたちはこれを避けられないだろうってな。」

稲妻の閃光が混沌とした景色を浮かび上がらせた。クルーたちは甲板を駆け回り、ある者は海が両の腕を伸ばして彼らをからめ取ろうとする度に悲鳴を上げた。ある者は索具と格闘し、必死に帆を巻き上げようとしていた。私は指示を出そうと叫んだが、それは稲妻と風にかき消されるだけだった。

もうひとつの声が嵐の中で響き渡った。「Vas Rel Por!」

まばゆい光がアララト号に降り注ぎ、青色のゲートが甲板に現れた。スーテックはこの魔法のゲートの前に立ち、彼の腕とスタッフはいっぱいに広げられ、彼の白いローブは脈打つクリスタルのように輝いていた。

「八徳の加護のあらんことを。」ノスフェンターは目を大きく見開いて言った。「ムーンゲートだ。」
「乗客を!」スーテックはそこにいる人影に叫んだ。ムーンゲートの強い光で、私はその影がアスタロルであることを確認した。「安全な場所まで連れて行け!」

「彼らを助けなきゃならん。」私はノスフェンターの手を引き剥がしながら言った。「フォリーナをみつけてゲートまで連れて来てくれ。生きたければアララト号を捨てるしかない!」

ノスフェンターは頷き、よろめきながらその場を去り、彼の影は間もなく雨のカーテンに遮られて消えた。私はアスタロルが怯えきった乗客たちをムーンゲートへ導いている場所へと走った。持ち場を放棄したクルーたちに見捨てられた者たちは、身の安全を図ろうと這い回っては滑り落ち、もはや港に立て掛けられたかのような、今にも片手でひっくり返されそうな船の中でもがいていた。ノスフェンターとフォリーナも間もなく到着し、ともに乗客たちの救出に当たった。

乗客とクルーのほとんどが光を放つゲートを通じて去って行ったその時、突然大きく膨らんだ海が船の右舷を押しやった。トリンシックの要塞よりも高い波が形の定まらない化け物のように渦巻きからそびえ立っていた。

「早くしろ!」私は叫んだ。「ゲートに入るんだ!」

私はアスタロルがゲートに飛びつくのを見た。ノスフェンターはフォリーナをゲートに押しやろうとしていたが、波は私たちを捉えて離さなかった。私は後ろに投げ出され、視界は定まらなくなった。冷たく、汚れた海水は渦を巻きながら私の喉に流れ込み、目を突き刺し、そして甲板にくくりつけられていた樽の山へと私を放り込んだ。次の波にさらわれる直前に私は一本のロープを掴んだ。無我夢中で樽の山を転がりながらこらえ、海に落ちた。

ロープはピンと張った。私はアララト号の側面に叩き付けられてバウンドし、ぶら下がりながら渦巻きの中心部をじっと見下ろした。時間はひどくゆっくりと流れ、さらに減速して行く中で、言いようもない静寂が私を襲った。いくつかの樽が光り輝く海のしずくをまき散らしながら甲板から転がり落ち、荒々しい水の壁の先端で回転しながら、海や、すべての現実すら無に帰す真っ黒なインクのような虚空間に静かに吸い込まれて消えて行った。

そしてその虚空間の中に、一瞬光を見たような気がした。

「ジョン! 待ってろ!」

私は見上げた。時間と音が正常に戻った。ノスフェンターが船の端から身を乗り出し、ロープを引っ張り上げようとしていた。彼の頭上には分厚い雲が稲妻に縁どられて渦巻いていた。
フォリーナとアスタロルの助けでノスフェンターは私のベルトを掴んで引き上げた。甲板の上に投げ出されながらも、私は何かが違っていることに、そこに光がないことに気づいていた。「ムーンゲートは!」私は叫んだ。「どこに行ったんだ?」

ノスフェンターの厳しい表情がすべてを物語っていた。彼がもつれた索具と樽の中に横たわる、ぴくりとも動かないスーテックの体を指差すまでもなかった。

雷鳴がとどろいた。私は一瞬、大鎌が麦を刈るように、メインマストを稲妻が転がり落ちるのを見た。しばらくして木の裂ける悲鳴のような音が私たちの下から聞こえて来た。アララト号の側板が剥がれ落ちていたのである。私は船が傾くと同時に自分と、仲間たちの悲鳴を聞いた。最後に私はもう一度だけ、渦巻きの黒い中心を覗き込み、それは私に追いつき、私を飲みこんだのであった。

* * *

「ジョン? ジョン? しっかりして。」

ぐったりとしながら私は目を開けた。彼女のスタッフの灯りでフォリーナの目に安堵が浮かぶのが見えた。「すぐに具合がよくなるわ。ほとんどの怪我はヒールしておいたから。」

「スーテックは?」私はささやいた。

「彼は生きてる。そして休んでるわ。」彼女はそう言って私の額をなでた。「アスタロルが彼についてる。ノスフェンターは船を調べてるの。」

「他は?」

彼女は言いよどんだ。「私たち5人しかいないわ。他はみんな脱出したか……亡くなったわ。」

「まだ水の上にいるんだろう。私にはわかる。」私の声はうつろに響き、こだまするのが聞こえた。「ノスフェンターに帆を上げないように伝えてくれ。」私は疲れた笑みを浮かべて言った。「風がないんだ、あの巨人はそれがなきゃどうしようもないってことがわかっちゃいないんだ。」

フォリーナは微笑んだが、私には彼女が不安を押し隠していることが見て取れた。「伝えておくわ。」彼女は囁いた。「眠った方がいいわ。愛しい人。」

「うん。」私は横になり、空を一瞥した。

そこに星はなかった。雲もなかった。ただ、空虚があった。

私は飛び起き、絡みついていた少しの索具を跳ね除けた。呼吸は短く乱れ、空気は……古く、すえたような、それでいて地下室を通り抜けて来たかのような冷たさだった。ただそこには風がなかった。空気の流れが一切なかったのである。

「徳の名にかけて。」私はかすかな声で言った。

「ジョン、お願いよ。」フォリーナは立ち上がって懇願した。

私は彼女を無視して彼女のベルトにつけられた防水ポーチを掴んだ。Black PearlとひとつまみのSulfurous Ashを取り出すと、最初に海に漕ぎ出した日にとうに置き去りにして来たはずだった呪文を唱えた。

燃え盛る球体がミサイルのように私の手からはじけ飛んだ。その光は静謐な海以外何も暴くことはなく、それが落ちてくるに従い私は絶望とともに見つめていた。私はそれが私たちがどこにいるのか手掛かりすら与えずに、ただ海に飲み込まれて行くのだろうと思っていたのだ、しかし突如として、ミサイルは轟音とともに爆発したのだ。薄い岩の壁にぶつかって。爆発と絶え間ない石礫が海に降り注ぐ音が、まるで巨大な洞窟内にいるかのように反響した。

「ジョン。」フォリーナが囁き、彼女の手が私の肩に置かれた。アスタロルが不機嫌な表情で私を見た。

「ここは何だ?」私は問いただした。反響する自分の声に思わずひるんだ。

「アンダーワールドだ。」声を発したのはスーテックだった。彼の目は額に巻かれた包帯の下で冷たく光っていた。「大評議会とブリティッシュの馬鹿がこれを作った日を呪うよ。」

CHAPTER 2
地下世界

6/23/137
ここへ漂着してから2日間が過ぎた – 私の懐中時計によればだが、すなわちアンダーワールドにおいて他に時間を知る術はなかったのである。いずれにしても夏至は来て、そして過ぎ、フォリーナへの指輪は手つかずで隠されたままだった。今は彼女にプロポーズすることはできない。それをすることは私たちが最期のときまでここに留まることを認めるようなものだった。

スーテックの怪我は思ったよりも重篤だった。彼はほとんどの時間を眠って過ごしており、食べられるときに食べていた。フォリーナとアスタロルが共に彼の面倒を見ていた。フォリーナは彼をヒールするものの、万一の場合に備えて呪文を節約することを望んでもいた。

アララト号の損傷は幸いなことにそれほど深刻ではなかった。私はアララト号があの渦巻きを耐え抜いたことを誇らしく思っていたことを認めねばなるまい。船体はやや傾き、側板のほとんどは水浸しになって塩水の匂いがしていたが、何にせよ船はちゃんと浮くのだ。生活用品のほとんどを回収できたのは、食糧を調達できさえすればだが、良しとせねばなるまい。そして機能しているかに見える私のコンパスが正しければ私たちは南東に向かっているはずだった。潮の流れが私たちをどこへ連れて行くかは知る由もなかった。でも心配しても仕方がないのだ。私たちにできることなど何もないのだから。

* * *

6/25/137
ノスフェンターと私はアララト号が加速していることに気づいた。それを踏まえて私はこの戦士の勇気を賞賛する。彼の信念は揺らぐことなく、おそらくはアスタロルと良い友人同士になったこともあるのだろう、彼の朗らかさは尽きることがないようだった。彼ら二人がいてこそアララト号は修理をすることが可能だったのであり、フォリーナがいてくれることももちろん、私たちが取り残された事実を許容できるものにしてくれた。

それに私は今晩星を見たのだ! 仲間たちは信じてはくれず、私に用心深い視線を向けたが、徳の名にかけて、それはブリタニアの空へとつながる窓がたまたま開いたのではないかと思うのだ。ノスフェンターは私がその方向を見上げ続けるなら、いつしか私をスーテックと見紛うだろうと不満を言った。私は笑うしかなかった。

かのメイジはついに回復した。彼は今や食べることができ、いわゆる“アンダーワールド”に対して私たちが詳細を知るのはそれほど後のことではなかった。

* * *

「私はやめるよう警告したんだ。」スーテックは言った。「エセリアルボイドに干渉するなど狂気の沙汰だ。ほとんど知られてはいないが、あまりに邪悪なものを解放しかねない。」彼は食事の残りを私たちが甲板に作った小さな炉の中に投げ込んだ。火の粉が勢いよく立ちのぼった。「あいつらは大馬鹿者だったのさ。」

「ボイド。」フォリーナの隣に座っていたアスタロルが繰り返した。彼はマンドリンをかき鳴らした。「そのようなものについて聞いたことがあります。それは魔法そのもの。星の材料。世界の果て。」

「それはあんたの物語に過ぎんだろう?」ノスフェンターは炉の向こうから足音をたててやって来た。

「違うわ。」フォリーナは言った。「アスタロルは本当のことを言ってるのよ。魔法使いはみんなボイドのことを知ってるわ。」彼女は私の手を握った。「だけどスーテックが言ったように、そこについてわかっていることはわずかなの。」

「そこが危険だってこと以外はな。」スーテックは言った。「そして私の同胞たちとロード・ブリティッシュが大評議会を召集した際にも同じことを言ったんだ。私の抗議にも関わらず、ブリタニアで最も傑出した8人の魔法使いたちが、私も含めてだが、知の経典コデックスをアビスから取り出すために選ばれたのだ。」

ノスフェンターは突然立ち上がり、目は大きく見開かれて輝いていた。「そうだ。」彼は言った。「俺たちはみんなあの日を覚えてる。あなたは年老いたように見える、魔術師よ、あの日よりはるかに。」

「その場所は一体何なんだ?」ノスフェンターのいぶかしげな視線を無視して私はたずねた。「大評議会とエセリアルボイドがどう関係があるんだ?」

「もともとコデックスはエセリアルボイドにあったんだ。」スーテックは答えた。「ブリタニアの地表にコデックスを持って来た時、私たちは今いる世界とボイドの境界線を断絶させてしまったのだ。凄まじきはその余震だった。アビスがかつてあった場所からは山が隆起し、地響きは遠きバッカニアーズの地まで感じることができた。これらが収まると私の同胞たちは何事もなかったかのように自らを祝福し合い、成功を宣言するためにロード・ブリティッシュのもとへ戻っただけだった。どんなものを産みだしてしまったのか想像すらしなかったんだろう。」魔法使いの声が苦虫をかみつぶしたように変わった。「だが私は感づいていた。かつてアビスがあった場所にできた空洞は、いずれ埋められねばならないとな。」

魔法使いは立ち上がり、暗闇の中に目を凝らした。「そういうわけで酒場でブリタニアの地下世界の物語が流布されるようになったとて、私は驚かない。」彼はマンドリンをきつく握りしめていたアスタロルに向き直った。「もちろん吟遊楽人よ、あなたも幾多のこれらの物語を伝えて来たのだろう。おそらくはスピリットウッドの話も?」

アスタロルは喉をごくりと言わせた。「ええ、伝えましたとも。メルストーム川(大渦巻川)のその下には、偉大なるスピリットウッドを育む隠された水路がある。それこそが屈強なる戦士の一団が辿ったとされる地下世界の川。それは失われし世界、彼らが言うところの、暗闇と絶望の地、悪臭と闇に紛れた化け物の繁殖地へと彼らを導いた。戦士たちは如何にしてこの地を逃れたのか。誰も語ろうとしなかった。」

「ダンジョンを通って来たわけではない。」スーテックはあざ笑った。「魔法使いたちと大評議会だけがそこを開く力の呪文を知っていた。吟遊楽人よ、私は戦士たち自身が大評議会で同じ話をするのを聞いた。彼らの冒険を聞いた後、ロード・ブリティッシュは興味をそそられた(intrigued)と言った、まさしくintriguedこそがアンダーワールドの言葉だった。彼は8人の魔法使いたちにこの地についてもっと研究するように言った。彼が翌年探索を開始することができるように。」スーテックは座り、背中を丸めた。「だから私はブリテインに戻って来たんだ。」彼は静かに言った。「私たち8人は各々の発見を次回の大評議会で報告するはずだった。」

「ではミノックで聞いた噂は本当だったんだな。」ノスフェンターは言った。「あんたはコブトスに居たんだ。」

「そう。コブトスはアンダーワールドにつながっている。もっとも他のダンジョンもそうだと思うが。」彼は宙を仰ぎ、その目は悲しみをたたえていた。「私はここに来たことがある。そして二度と戻るまいと決めた。しかし天は私に別の計画を示されたのだと思う。」そう言って彼はこちらへ顔を向けた。彼の視線はいぶかしげに揺らいでいた。「あの音は何だ?」

「音だって?」まさに聞き返そうとしたその時、私もそれを聞いた。鈍い音は最初はくぐもり、だんだん大きくなって行った。

フォリーナが口を開いた。「この船よ。速く動いてない?」

瞬時に、ノスフェンターと私は視線を交わして舳先へと走った。すぐ目の前に、つい今しがた私たちがいた回廊から分岐するように洞窟が口を開けていた。洞窟の口をなめるように白い波がしぶきを上げていた。

「避けるにはもう遅い。」私は言った。「へたをすれば壁にぶつかってしまうだろう。ノスフェンター、舵を取れ、洞窟を抜けるんだ。これ以上入口が小さくならないことを祈ろう。」

* * *

6/28/137
アララト号は最後の航海を終えた。洞窟の中を運ばれるまま、水のあふれるままに私たちを船から湖へ押しやった濁流を耐え抜き、私の戦艦は小島に打ち上げられた。幾日もの間、私たちはノスフェンターと私がなんとか修理することができた小舟で湖とその岸とを彷徨い続けた。発見したものは私たちに希望を与えた。いくつかの回廊がアンダーワールドのより深部へと続いていたのだ。これらの回廊を探検するうち、ブリタニアへの出口を発見できるかも知れない、おそらくはスーテックが開くことのできるダンジョンを通じて。

私たち5人は来週には探検を開始しようと計画した。もちろん、スーテックの先導によって。私の船が打ち上げられてしまった今、私はもはや船長ではないのだ。しかし私はこの魔法使いにリーダーシップを譲渡できることに感謝している。ここ何日かの夜の間、私は罪の意識に苛まれ続けた。ほかの誰でもない、自分こそがアララト号の遭難の責任者であり、大渦に巻き込まれて亡くなった人々、そして私たちをひっきりなしに蝕む闇に対して責任を負っていたのである。

* * *

7/1/137
時に幻覚を見ているのではないかといぶかるも、私はふたたび星を見た。それは暗い池に憩うようにかすかに光ってさざ波のように揺れた。私はフォリーナを呼んだが、彼女がアスタロルとノスフェンターの元を去る時間になっても、アンダーワールドの荒廃した闇が戻って来るだけだった。

彼女は私を信じていると言うが、時に私は彼女の誠意を疑うことがあった。すると彼女は複雑な笑みを浮かべ、すべてはどうでも良くなるのだ。

* * *

7/2/137
私たちはあと数日のうちに探検に出掛ける予定だ。ノスフェンターは彼の戦闘技術を磨くのに忙しく、フォリーナは彼女のスペルブックを学んでいた。アスタロルは彼らのうち一人、もしくは全員といっしょにいた – 主にフォリーナといっしょであることに私は気付いていた – 彼らを物語や歌で喜ばせることをしていた。彼は私にもジャグリングの技術を教えようと試みたが、私の不器用さも相まって、何より私の心は罪の意識で沈み込んでいた。私はしばしば他の三人をうらやましそうに眺め、なぜこの期に及んで彼らがあんなにも陽気でいられるのか、いぶかしく思いながら一人でいる自分自身を発見した。スーテックもまた、彼の時間のほとんどを一人で過ごし、アンダーワールドについて彼が記録したメモに没頭していた。いまだに彼が星なき空を見上げるのを、私は時折見ることがあった。

フォリーナは私のよそよそしさを心配した。フォリーナはしばしばいっしょに勉強しようと私を誘った。時には応じたが、かつて馴染んでいたこれらの基礎的な魔法の呪文は、私にはとうに無縁のものになっていた。これまでの生活に思いを馳せるうちに授業は打ち切られた。

* * *

「武器だって?」ノスフェンターはアスタロルが短剣を彼のベルトに着けているのを見て笑った。 「あんたに武器は必要ないよ。あんたは音楽で敵を怖がらせることができるじゃないか。」

「戦士よ、言葉に気を付けてください。」アスタロルは答えて言った。「私の慣れない手が武器を取り落としてあなたの足を突き刺さないとも限りませんから。」彼はマンドリンを肩に掛けると、探検のために準備された小舟に彼のバックパックを滑り込ませた。「フォリーナ、このすばらしき朝にあなたはひときわまばゆく輝いて見える。」

フォリーナは笑って彼女のすみれ色のローブの上に重ねた古い風合いの革のベストを引っ張って言った。「これ素敵でしょ。そうじゃなくて?ジョン、支度できた?ジョン?」

私は瞬きをした。私はじっとアララト号の残骸を見つめていたのだ。「もちろんだとも。」私は答え、作り笑いを浮かべて見せた。「これを使うのもずい分久しぶりだ。」私は自分のメイスを掲げて見せた。「スーテックはどこだ?」

「あのメイジかい?」ノスフェンターは大声で言った。「あれはまだ船の中にいる。俺が連れて来よう。あいつはここで野垂れ死にしようがどうでもいいんだろうが、俺はな……。」

まるで沈黙するナイフのように暗闇から現れ出た爪に、その場にいた誰もが動けないまま、ノスフェンターの喉が掻き切られた。フォリーナが彼の傍に駆け寄ってヒールの呪文を詠唱するなり空気はぞっとするようなきしみ音とともに突如爆発し、革の翼のこすれる音と、むかつくような腐肉の臭いがした。アスタロルは叫び声を上げ、彼の前で横目で睨みつける黄色い目に向かって斬りつけた。彼の敵が地面に傾ぐとともに恐ろしげな嘆きが聞こえた。

私のメイスも暗闇を舞い、敵を捉えた。毛に覆われた有翼の人の姿をしたそれの顔は獣にも人にも見えた。痛みに顔を歪ませ、その唇はめくれあがり、細長く白い牙がのぞいていた。まさにその歯めがけて私は次の攻撃を繰り出し、骨が砕ける音が反響するのを聞いた。

アスタロルの悲鳴がわずかな間続いた私の勝利を中断した。私は彼の背中にしがみついた生き物を叩いたが、次の瞬間吟遊楽人に飛びかかってそのまま地面に叩きつけた。私はメイスを振り上げたが、さらなる攻撃者によって冷たい湖の水の中へと振り落とされてしまった。私は体をひねり、ただ闇雲に攻撃を繰り出した。それでも敵に攻撃を当てることができたのは幸運だったのだろう。まだなお空気はその生き物と私の仲間の叫び声とでくぐもっていた。

その時魔法の呪文が洞窟の中を響き渡り、風が巻き起こった。生き物たちの周囲の空気は黒い渦の中でさざ波を立て、彼らはさながら目に見えない力に骨から肉を引き剥がされているかのような悲鳴を上げた。スーテックが詠唱を終わらせるまでのわずかな間に、敵の残骸が地面を一面に覆った。

足をもつれさせ、汗だくになりながら、私はフォリーナの体がノスフェンターに力なくもたれかかっている場所へと急いだ。呪われるがいい、彼女に駆け寄るや否や、私の目には涙があふれた。私はあえぎ、手袋をした手が私の手首をつかんだ。

「彼女は眠ってるだけだ。」ノスフェンターが言った。「俺の命を救うために彼女自身を注ぎ込んだんだ。吟遊楽人の方を見てくれ、早く。」

私は黙って頷くと、吟遊楽人の横に跪いた。彼のシャツは既に血に染まっていた。

突然スーテックが彼の体の前に跪いた。「どいてろ。」彼は命令した。「Mani」、彼が囁くと同時に秘薬のGarlicとGinsengの刺激臭がした。アスタロルの胸が膨らみ、彼は私たちに血を吐きかけながら咳き込んだ。「今私にできるのはこれくらいだ。」スーテックは言った。「より威力のある魔法のためにマンドレイクを消費するわけには行かん。彼をアララト号に連れて行って休ませるんだ。」

フォリーナとアスタロルがともにアララト号のキャビンのベッドに横たえられた時、スーテックは満足げに何やら呟きながらドアへ向かった。「行くぞ、船長。私たちは行かなくちゃならない。ノスフェンター、君はここでこの魔法使いとバードを守ってやってくれ。」

「何だって?」私は言った。「彼らをここに置いて行くことはできない。」

スーテックは歩みをとめて振り返り、彼の視線は今しがた彼が行使した魔法と同じくらいの力に満ちていた。「彼らは助かる。だがアスタロルが歩けるようになるまでには1週間はかかる。私たちにはそこまで待つ余裕はない。誰かが彼らを見ていなくてはならない。」

ノスフェンターの頬が彼のあごひげと同じくらい赤く燃え立った。「あんたたち二人だけで行ったらだめだ。あの生き物が殺しに……。」

「以前はムーンゲートでどうにかなった。」スーテックは厳しい口調で言った。「しかしあの生き物たちはそれよりもはるかにたちが悪い。船長と私は安全だ。あなた方もアララト号の中にいる限りは安全なはずだ。」

ノスフェンターは突然剣を抜いて前へ踏み出した。「あんたは俺たちを置いて行くな、俺の友人も連れて行くな!」

スーテックの目が細められた。私は素早く怒れる戦士の前に割り込んだ。「やめるんだ、ノスフェンター。スーテックが言ってることが正しいとわかっているはずだ。これ以上旅を長引かせればそれだけ長くアンダーワールドに留まることになる、私たちの物資はそう長くはもたないんだ。」
ノスフェンターの眉間にしわがよった。「一週間なんて変わりゃしない。」

「アスタロルは1週間後には歩けるようになるだろうが、この怪我では洞窟内を探検できるまでに回復するには1か月はかかるだろう。魔法使いは呪文を彼の回復に費やすだけの余裕はないんだ。特に傷が自然に癒えるものならね。」私はフォリーナの方を見た。「彼女も意識を取り戻せば、きっと私に賛成してくれるさ。」

ノスフェンターはしぶしぶと武器を下ろした。「じゃあそうしろ。」彼はスーテックを睨みつけた。「俺は生まれてこのかた魔法使いどもとは議論するなと教えられて来たのさ。」彼は私の肩に手を置くと視線をやわらげた。「さようなら、ジョン。恐れるな。俺たちの友人の面倒は見ておく。」

私たちが去る時、彼はそれ以上何も言わなかった。

CHAPTER 3
新時代の予言

7/14/137
アンダーワールドはどこまでも続いていた。2週間近くもの間、スーテックと私は洞窟内の狭苦しい道を北西に向けて苦労しながら進んだ。私たちはしょっちゅうモンバットの羽のこすれる音と恐ろしげな鳴き声を聞いたが、幸いなことにこれらが私たちを攻撃することはなかった。おそらくこの有翼の友人たちは、スーテックが思慮すべき敵であるとの噂を広めてくれたのだろう。

今日、スーテックと私はおそらく地表ではコーブと呼ばれているであろう沿岸を横切った。私はここを“絶望の入り江”と名付けたが、スーテックが私のユーモアを理解してくれるかどうか疑わしかったので自分一人の胸の中に留めておくことにした。私たちは大きな通路がアンダーワールドの心臓部へと続く北西の岸にキャンプを張った。

* * *

私は記録帳のページを閉じ、インク壺の蓋を閉めると羽ペンとともにそれをポーチの中に入れた。毛布をかき集めると私は手の上に頭を乗せて、スーテックがスペルブックをめくる音を聞きながら眠りが訪れるのを待った。私はこうした繰り返しに慣れて来ていた。私と連れとはキャンプを張り、食事を作り、食べるのだ。そして私は旅の記録を取り、めったに互いにおやすみを言うこともなく、スーテックが学ぶ間に眠りに落ちるのだ。

岸辺を包み込む波の音を除いては、湖の近くで過ごすその夜は変わった様子もなかった – 少なくとも、最初は。

キャンプファイアは次第に小さな燃えさしへと変化し、私の目がついに眠りへと落ちそうになるのを感じていたその時、スーテックが静かな声で言った。「船長、見てみろ。星がふたたび現れた。」

私は毛布を跳ね除けて飛び起きた。幾千もの光が普段は暗闇が支配する世界で揺らめき、黒いカーテンを背景に二つの金色のオーブのようにぼんやりと輝くのは、まさしく私がかつて知る夜空を育んだ二つの月、トランメルとフェルッカであった。どれくらい長くそこに佇み、私の手が美しい天空のドームへといっぱいに伸ばされ、その輝きに浸っていたのか、私は思い出すことができない。ただ、覚えているのはそれが必然であるかのように空がさざ波をたてて震え、引き剥がされるようにそれらが突然消えてしまった時、両の頬に伝わった涙の感触だけだった。

「私は狂ってなんかなかった。」私は自分に囁いた。

「もちろんあなたは狂ってなんかいない。船長。」スーテックの声は私を絶望から我に返らせた。魔法使いは彼のスタッフでつついて熾した炭の近くへ来て座るよう私を手招きした。

私は毛布にくるまって落ち着いた。「どうしたらそうなるんだ?なぜ星が見えるんだ?」

「この場所、これらの洞窟はブリタニアの地下にあるというわけではない。」スーテックは答えた。「これらは世界の欠片なのだ。私たちがボイドを破壊し、コデックスを引き寄せた時に作り上げてしまった溝を埋めようと産まれた副産物なのだ。そしてこれらの創造物はいくつもの現実を行き来する非常に不安定なものだ。あなたは地面が揺れるのを確かに感じただろう。空に見えるものも同じことだ。ボイドそのものが揺れているのであり、この世界を抜け出すために私がゲートを開くことができないのはそういう理由からだ。けれど天はまだ救いだ。星は何かの前兆と見られる。」

「それで、星は大渦巻がどうやって私たちをここへ運んだのか教えてくれたのかい?」この質問が彼の説を嘲ることになるのは承知していたが、これは長い間私が聞きたいと思っていたことだった。

「いいや。」スーテックは認めて言った。「けれど大渦巻は常にその正体を神話と伝説に覆い隠されて来た。あなたも水夫としてもぬけの空になった船や、ロックレイクの岸に突如として現れた難破船の話を聞いたことがあるだろう。大渦巻はその所作によって忌み嫌われて来た。そりゃそうだろう?その濁流は猛烈な、自然の怒りの発露だ。そのようなものがボイドに波紋を起こし、私たちをここへ引きずり込んだとて私は驚かない。」

「アスタロルがここにいないのが残念だ。」私は微笑んだ。「それを聞いたら喜ぶだろう。」

「そうかもしれない。だがそうではないかもしれない。大渦巻があなたの船を直撃したとき彼は甲板にいた。彼はあなたのクルーたちが嵐から逃れようと舵を切って無駄な努力をする間でさえ、それが私たちについて来るのを見ていたんだ。それは正しい。船長。渦巻きはあの夜、私たちを探し出したんだ。私たちがここにいるのは偶然ではない。」彼は黙り、そして哀れむように、まるで私の息を締め上げる恐怖をなだめることができると言わんばかりに再び口を開いた。「あなたのクルーたちが悪いのではない。星は私たちの航海の最初の日にそれを告げていた。」

私は思い出した。地獄に落ちるがいい、あの日私は彼がノスフェンター、フォリーナ、そして自分をどのように見ていたかを思い出した。私は彼の目に宿っているものは悲しみだと思っていた。しかしそれは哀れみだったのだ。「あんたは知ってたんだな?」私は叫び出さんばかりだった。「知ってて黙ってたんだな? なぜだ?」 私は拳を握りしめた。

「言ったところで聞いたかね?」

彼の質問には何分間も答えられないままだった。フォリーナは彼の言うことを信じたろう、そして私にミノックに戻るよう説得しただろう。けれどノスフェンター、私のクルーたち、そして乗客は、天に示された彼らの運命を決して信じようとはしなかっただろう。

魔法使いは頭を垂れた。「私にはそうは思えなかったのさ。運命を回避するより立ち向かおうとする者はごくまれにいるがね。」

「あなたはどうなんだ?」私は怒りを抑え切れずに聞いた。「あなたは我々もろとも渦巻きに嵌るとわかってたんだろう? あなたの運命はどうなんだ?」

彼のスタッフの先端がまたしても熾火をおこした。彼は私を見上げ、柔らかく、赤く燃え立つ炭がかろうじて彼の痛みを照らし出していた。私は彼が口を開いてすぐ、自分が彼に向けた敵意を悔いた。

「狂気。」彼はつぶやいた。「隔絶。」
私が沈黙を破る前に、アンダーワールドの影はそうと知らぬ間に私たちのキャンプに忍び寄っていた。「私の運命も?」

「同じだ。」彼は言い、消え行く熾火とともに彼の苦悩が深まるのを私は見た。

* * *

7/22/137
あの夜から三週間が過ぎたが、ブリタニアへとつながる道しるべは見つからなかった。今晩は南東に走る狭い回廊にキャンプを張ることにした。その果てを見ることはあるのか私は疑わずにおれなかった。間もなく物資がつきて私たちはアララト号へ戻らねばならない。この考えが私を落胆させていたかというとそうではない。私は仲間たち、とりわけフォリーナが懐かしく、隠してあった指輪を取り出して彼女の指に嵌めることを幾度となく思い浮かべたことをあえて認めよう。アンダーワールドはいくらか明るい場所になるだろう。おそらく、結婚を伴うのなら。

* * *

その夜は悪夢を見た。

私の目を覆った光はどこから来たのかわからなかった。柔らかく、消え入りそうなそれは私の目覚めを待つ人影に寄り添っていた。背が高く、力強く、戦士のように彼は立っていたが、彼のマントと帽子が彼が魔法使いであることを示していた。ほんの一瞬、私はこのまぼろしを見たことがあるような気がしたが、次の瞬間記憶を辿ることを断念した。彼の見た目が私を不安にさせ、スーテックを起こすことも考えさせた。しかし、私はそうはしなかった、奇妙なことにこの亡霊の出現は、私がアンダーワールドに入って以来感じたことのない静寂を私にもたらした。

「ジョン。」彼は言い、手を差し出した。彼のてのひらの半分の長さはあろうかという爪が私を手招きした。「汝の眠りから目覚めよ、ジョン。私はそなたを助けることができる。」彼は踵を返し、床をすべるマントは影のように音をたてることもせず、岩の切通しの壁の中を進んで行った。彼が誰であるのか、まだわからなかったが、その顔はよく知っている顔であり、だから私も壁の中を彼について行ったのだ。眠っているスーテックを一度だけ振り返りながら。

何時間、いや何日、あるいは何年、私たちはアンダーワールドの岩の間をまるでそれが空気であるかのように通り抜け、地底の海をまるでそれが地面であるかのように踏みしめ、ついに大いなる海を横断するまで旅し続けた。険しい岩山が溶岩流の中で煮えたぎっている島が私たちの目の前に迫った。一度だけ恐怖が私を襲った。立ちはだかる溶岩のカーテンの中で、視界とすべての感覚を奪う絶対的にして完全なる暗闇の中に足を踏み入れた時に。私は叫ぼうとしたが、私の声が聞こえることはなかった。

私は魔法使いが話すのを聞いた。彼の声は静かで、流れるようで、私を落ち着かせた。

「ついに辿り着いたぞ。ジョン。」彼は言った。「ここは、すべての中心だ。」

彼を覆っていた光が戻り、心地よい輝きが私を包み、遺跡を照らし出した。砕けた柱が割れた大理石のドームの下からそびえ立ち、壁に沿って燃え残った破れたタペストリーが掛かっていた。真っ黒な衝撃の跡が黒と白のタイルを持ち上げ、床の中心から星形に伸びていた。離れた壁には金を嵌めこまれた鏡が立て掛けられており、おそらくそれは光のいたずらだったのだろう、その透明なガラスは部屋の内部ではなく別のものを映し出していた。

「ここは私の家だった。ジョン、何年もの間。」魔法使いは言った。「敵によって滅ぼされるまでは。」

「一体誰がこのようなことを?」私は尋ねた。

暗さをたたえた彼の目が細められた。「それは救世主であるとある者は言う、ふさわしい者たちに啓示をもたらすのだと。偽りの予言者をまたある者は求めるだろう、罪深き者に闇をもたらさんと。」彼の苦しげな表情はゆっくりと微笑みに変わった。「しかしすべては新たな時代のためだ。私はそなたの救世主となろう。ジョン、お前がもし、私のものになるのなら……」彼は物憂げに手を揺らして私を手招きした。「傍に来なさい。ジョン。私が言っていることがわかるだろう。」私は彼が止まるよう指示するまで従った。「ごらん、ジョン。そなたの運命を。」

私は部屋の中心を見下ろした。

短剣の刃ほどの長さの、砕けた宝珠の三つの破片が、黒い石に埋め込まれてあった。

「あれは何だ?」私は囁いた。

彼の答えには怒りが滲んでいた。「アーティファクトの破片だ、かつて太陽の力を自在に操った美しき宝珠の。今はただ朽ちて横たわっているだけだ。」彼の声が上ずった。「破片を取れ、ジョン。そして私の仇を討ってくれ。それによってのみお前もお前の仲間たちも自由になれる。」

私は前に踏み出した。私の手は最初の破片の上で一瞬躊躇った。その先端はナイフのように尖り、私の血肉に飢えているかのようにぎらぎらと輝いていた。私はそれを掴み、石から引き剥がした。

彼は私の目の中に宿る疑念に気づいたのだろう、言葉を発すると同時に彼の顔には怒色が浮かんでいた。「私の要求はそれほど信じがたいかね? 船長? あなたは船の方角を知るのに星を利用しないのか? それが人生を星によって導こうとする者とどれほどの違いがあると言うのだ?」彼は声を落として囁いた。「天がモンディンの、その弟子ミナックスの、彼らの子エクソダスの出現を予言したのはただの伝承ではない。三度彗星はブリタニアの空を焼き、三度暗黒の時代を予言した!」

「さあ、取るんだ。そうすれば自由になれる。」彼はもう一度言った。

二つ目の破片が石から引き剥がされた。

「私の仇を取ってくれ、ジョン。」

鋼を石で研ぐような上ずった彼の声とともに、三つ目の破片が引き剥がされた。

「頼んだぞ。」

その最後の声を発したのは一人ではなかった。それは三人だった。魔法使いの声が石の彫刻のように冷たい女の声に加わり、さらにもう一つ、人でも化け物でもない、けれど地獄の火に照らされて輝く頭蓋骨の声が加わった。

私はよろめきながらこれらの亡霊から、胸にしっかりと括り付けられたクリスタルの破片から逃れ、やっとの思いで肺にため込んだ悲鳴を発すると、私たちのキャンプファイアの熾火の横で目覚めたのだった。

CHAPTER 4
狂気

7/23/137
私たちは今日アララト号へ引き返すために出発した。スーテックはこのまま探索を続けることを望んだが、私の我慢の限界と、そしてこれを言うのは気がすすまないが、私の怒りが議論を制したのだ。一度だけ、私が先導したが、あまりの不安に先を急ぎ過ぎていたのだろう、スーテックが灯りを持って追いついて来るまで暗闇に一人いることに気づくこともしばしばだった。

悪夢だ。私は自身に言い聞かせた。あれは悪夢だったのだ。そのはずだ。私たちの荷物の中に破片は見つからなかったのだから。

* * *

8/4/137
先週来、私たちのペースは明らかに落ちていた。今日になってようやく、スーテックと私が最後に垣間見たブリタニアの空に祝福された湖畔に到達した。遅れの原因になっているのは他でもない自分だった。先を急げば自分は病気になってしまうだろう、私は立ち止まらねばならなかった。スーテックは忍耐強く、時間をかけるべきだと言ってくれた。

私はしばしば彗星の夢を見た。

あれは悪夢だったのだ。そうでなくてはならない。

* * *

8/18/137
呪われし旅路は永遠に終わらないのか? どれほど長く旅して来たのか、もはや思い出すことはできない。

私の病は悪化して行く。座り込んで息を整え、額の汗をぬぐうために、一時間ごとに私たちは立ち止まらねばならなかった。スーテックは疲れているだけだと言って私を励ました。

彼はそうではないことを知っていたと私は思う。彼は以前は微笑むことなどなかったのだから。

* * *

8/28/137
明日こそ仲間たちのもとへ辿り着くだろう……

影が、影が私を追って来る。

八徳の恵みのあらんことを……

あれは悪夢だ。そうに違いない。

* * *

割けたマストが手探りで天をまさぐる骨ばった手のようになったアララト号の残骸の近くに、私たちはボートを停泊させた。友人たちは私たちを熱狂的に出迎えてくれた。もっともフォリーナの抱擁を受けることができたのは私一人だけだったが。ノスフェンターは私の肩をつかむなり満面の笑みを浮かべ、アスタロルは「深淵への旅、危険に満ちた旅、勇気ある者だけが生還する旅!」と歌い、私たちを迎え入れた。

すべては変わらなかった。

友人たちの後ろに潜む、黒い影に私が気付くまでは。

私は叫び、突如として暗闇が訪れた。

* * *

私は自分のベッドで目覚めた。魔法の余韻を残してフォリーナの手が私の額を離れた。「何が起こったんだ?」訊ねながら私は自分の言葉の荒々しさに驚いていた。毛布にくるまれ、額に汗が浮かんでいるにもかかわらず、私は寒さに震えていた。

「あなたは病気なのよ。」フォリーナが答えた。「スーテックがあなたの旅のことを話してくれたわ。」

私は彼女の手首をつかんだ。「旅だって?」私はなじった。あの魔法使いは私の夢を目撃したと言うのか? アンダーワールドの中心部への私の巡礼の旅を知っていたと言うのか? 「何て言ってたんだ? 答えろ!」彼女の手首を握る私の手に力がこもった。

「ジョン、お願いよ。」彼女は言った。私はしぶしぶ彼女を放した。「彼は星について話してくれたのよ、ジョン。」彼女はささやいた。「アスタロルも、ノスフェンターも、私も、皆あなたたちをうらやましいと思ったわ。たとえわずかな間でも再びブリタニアの空を見るだなんて、想像すらできないもの。」

私はスーテックとともに分かち合った運命を思い出していた。狂気と隔絶。「そんなにたくさん見えたわけじゃない。」私はつぶやいた。「ところで、自分はどれくらい寝ていたんだ?」

「一日くらいよ。」彼女は答えた。「だけどもっと休んだ方がいいわ。」

キャビンへのドアが開き、派手な出で立ちの吟遊詩人が姿を現した。「船長の具合はちょっとは良さそうかい?今夜はいっしょに食事できるかな。謎めいた魔法使い、スーテックとの冒険についてもっと聞かせてもらわないとね。」

「いいえ、無理だと思うわ。」フォリーナが言った。

「そりゃ気の毒に。だけど奇跡の女性と言い争うつもりは毛頭ないのでね。デッキまでお送りしても? ノスフェンターが私たちのために食事の用意をしてくれましたよ。」

フォリーナは笑った。「もちろんですとも。私の吟遊詩人さん。」彼女は立ち上がり、私の手をしっかりと握った。「休むのよ、ジョン。あとで何か食べるものを持って来るわ。」彼女は屈んで私の額にキスをした。

私はかろうじて気づいていた。私の思考がある事実に向けられた怒りのために長引いていることを。アスタロルは高揚しながらただの一度もフォリーナから視線を逸らすことはなく、また私に直接言葉を掛けることもなかった。

* * *

9/1/137
私は力を取り戻していた。必要なら自分のデスクまで歩くことができるまでになった。フォリーナは彼女の時間のほとんどを私のベッドの傍らで過ごした。アスタロルはもちろん、そう遠くない場所にいた。彼は「寝たきりの船長の退屈をやわらげる」音楽と物語を聞かせてくれた。

だが吟遊詩人よ、私はお前の仮面の奥で、目に宿る嫉妬を見て取ることができる……。

* * *

翌朝、ノスフェンターが私の部屋に飛び込んで来るなりドアを背後でバタンと閉めた。彼は巻物を手に持っていた。

「魔法使いが消えた。」彼は淡々と言った。

私は枕で自分の体を支えると言った。「何だって?」

「スーテック、あの野郎。あいつは俺たちを置いて行きやがった。ただ死して朽ちるのを待つだけの呪われた世界にな!」ノスフェンターは机を拳で叩いた。口髭を震わせながら彼は続けた。「あいつから目を離すんじゃなかった。あいつは新たな調査について語っていたが、俺がついて行くと言ったら断りやがったんだ。今朝目が覚めたらボートがなくなっていた。こいつが残されていたよ。」ノスフェンターはまだ封を切っていない、私宛の巻物を投げて寄越した。「あいつは俺たちを破滅させる気だ! ボートがなければ俺たちはこの島に取り残される。地獄へ落ちるがいい! ジョン、わかったろう! あいつがお前に何をしたか!」

「ジョンが苦しんでいるのはスーテックのせいじゃないわ。ノスフェンター。」フォリーナがベッドから起き上がりながら言った。
「じゃあこれは一体何なんだ?」彼は詰め寄った。「こんな病気は見たことがないぜ。」
彼らが言い争う間、私は巻物をほどき、スーテックのか細い文字を読んだ。

船長
ここを立ち去ることを許してほしい。しかし、時間がないんだ。何とか地表へ出る方法を探らねばならない。そして君の仲間の誰一人としていっしょに連れて行くこともできない。彼らは私を邪魔するだけだろう。そこには彼ら三人を覆う暗闇がある。
だが安心してほしい。私が戻れば君を蝕む病は潰えるだろう。
—君の友人
スーテック

ノスフェンターとフォリーナは言い争うのを止め、私を見た。「その胸糞悪い魔法使いは何と言ってたんだ?」ノスフェンターは言った。

私は巻物を元に戻して自分の横に置いた。 そこには彼ら三人を覆う暗闇がある。 「急に出発することについて詫びていた。」私は嘘をついた。「彼は数週間もすれば戻って来る。」

* * *

9/10/137
彗星の夢を見た。

そしてあの声が言う……

「仇を討ってくれ」と。

* * *

9/21/137
日々はゆっくりと過ぎて行き、私も回復しつつあった。私はほとんどの時間を仲間と過ごしたが、彼らの存在が交流をもたらすことはなかった。彼らは私を見ている。彼ら三人だ。彼らは巧妙に姿を隠している。だが私は知っている。それが言葉でないならば彼らの息遣いを感じる。視線を感じる。アスタロルは歌い、物語を語るだろう。だが私とフォリーナが共にいる時、彼の目には嫉妬と憎悪が明滅する。スーテックが裏切ったのではないかと言うノスフェンターの恐れと疑惑は日を追うごとに大きくなって行き、私は彼が私と魔法使いが通じていることに気づくのではないかと恐れた。けれど、彼だけが信頼に足ることは変わりなかった。フォリーナ……愛しい、愛しいフォリーナ。私は夜毎の愛の誓いに嘘が混じっているのを聞く。美しい目が私と吟遊詩人の間で揺れ動くのを見る。

私は何度もスーテックの最後のメッセージを取り出して読む……。

そこには彼ら三人を覆う暗闇がある。

……そしてそれを読むとき、私は自分が一人ではないことを感じる。誰かが共に巻物を読んでいるかのように。けれどその存在を確かめようと振り向いてもそこには誰もいないのだ。

* * *

私はノスフェンターに二人きりでキャビンで会ってくれるよう要請した。彼は応じたが、私の話を聞くなり激高した。

「お前さん正気か?」ノスフェンターの怒声が壁を揺らした。

私はゆっくりと椅子に体を預け、恐怖を悟られまいとした。戦士は私の机の上に屈み込み、それはまるで怒りの山と対峙しているかのような気分にさせた。「言われた通りにやってくれ。」私は言った。「アスタロルの裏切りには気付いているはずだ。背後に気を付けろと言ったのは君じゃなかったのかい?」

「あれは冗談だ。」ノスフェンターは声を落とした。「吟遊詩人に剣を抜く理由がない。彼は俺の友人だし、 俺を信じるか信じないかは君の自由だが、彼はフォリーナの友人だ。情夫なんかじゃない。」

「あいつは盗人だ!」私は叫んだ。椅子が床に固定されていなければ、私が勢いよく立ち上がると同時にそれはひっくり返っていただろう。「そして彼女は嘘つきだ! さあ、これを終わらせるために手を貸すのか、それとも怖いのか?」

戦士の頬が怒りで赤く染まった。その一言で彼は机から離れる精一杯の努力をしなければならなくなった。私を殴る代わりに彼は静かに言った。「スーテックと旅から戻って来てからあんたは以前のあんたじゃない。アンダーワールドで一体何があったんだ? ジョン?」

「別に何も。」私は嘘をついた。 そこには彼ら三人を覆う暗闇がある。 「変わったのはあんただ。この呪われた場所に来るまでは、お前が決して裏切らないと信じることができた。今、お前は他のやつらと変わらん。私が信じられるのはスーテックだけだ。」

ついに戦士の怒りが爆発した。「スーテックだと!」彼は怒鳴った。「お前さんに嘘を吹き込んだのはあいつなのか? あいつはお前さんに何をしたんだ?」

「何もしていない。真実を教えてくれただけだ。」私は言いかえした。「他のやつらよりも多く。」
「あいつはお前さんを病気にしちまった!」ノスフェンターが更に言い返した。「自分の声をよく聞け!」彼は壁にかかった鑑を指差した。「自分の姿を見てみろ! 自分に何が起こっているかを見ろ!」

私は恐怖と共に鑑に向き合い、そこにかつて知ったる男の骸骨を見た。顔の肉は引きつり、髪の毛は頼りなく垂れ下がっていた。そして目は、おお、私の目 – 血まみれの球体が骸骨の窪みからじっと私を見ているようだった。私の手が震えはじめた。

次の瞬間、アスタロルとフォリーナが部屋に入って来た。「どうしたの?」フォリーナが聞いた。「大声が聞こえたのよ-」

赤い霧が視界を覆った。「アスタロル!」私は叫んだ。「この野郎!」

私は彼の首を絞めるつもりで吟遊詩人に飛び掛かったが、ノスフェンターの拳が私の胸に命中した。私は苦しげな息を吐きながら、デスクにひっくり返ってしまった。フォリーナが進み出ようとしたが、ノスフェンターが手を上げて制止した。「だめだ。彼から離れろ。」

フォリーナが抗議した。「私がやるわ—」

「行け! 今すぐにだ!」ノスフェンターが命令した。「彼の怒りが鎮まってからにしろ。」

フォリーナはしぶしぶ頷いた。アスタロルは憐みの目を私に向けるとフォリーナに続いて出て行った。

ノスフェンターは私が息を整え、立ち上がるのを待っていた。「裏切り者め!」 私はようやく声を出すことができた。私は一歩進んだ。

ノスフェンターは剣を抜いた。「下がれ、ジョン。」彼は警告した。「お前さんは病気なんだ。俺は病人を傷つけたくはない。」

彼もまた、後ろにじり下がった。ドアが閉じられ、掛け金が下ろされた。そして私の怒りは苦しげな嘆きとなって放出された。

* * *

彼らは私をキャビンに閉じ込めた。私がそこを出られないようにノスフェンターが見張りに立った。私はそこかしこでアスタロルとフォリーナが私に対して陰謀を企てているさまを想像していた。ごくまれに彼らが戦士と話をしているのを聞くことがあった。彼らは私を心配しているようだった。

だが、私を裏切るならもっと上手くやるんだな、友よ……

もちろんだとも……

もっとうまくやるんだ……もっとうまく……もっとうまく……もっと……

* * *

「ジョン?」

私はデスクから頭を上げた。どうやら日記を書いている途中で寝てしまったようだ。昨日のことはよく覚えていない。彼らが私をキャビンに閉じ込めたこと以外は。

「ジョンよ、約束を果たす時が来た。お前を自由にしてやろう。」

ストーブの真紅のゆらぎの中にいつか夢の中で出会った魔法使いの輪郭を見て取ることができた。あせって私は立ち上がり、インク壺とペンを床に取り落としてしまった。インクはこぼれて足元でどす黒い輪を広げた。「どうやって?」私は訊ねた。「どうやったら逃げられる?」

「フォリーナの指輪をしまってあるチェストを見てみろ。急ぐんだ。もう時間がない。」

私はベッドの脚元近くに置かれたチェストの前に跪き、床板の下に隠してあった鍵でそれを開けた。チェストの蓋は重々しい音を立てて開いた。フォリーナの指輪を入れたポーチの横で、鈍く光りながら横たわっているのは3つの宝珠の破片だった。

「それをお前にやろう。ジョン。」

私は言われるまま、破片をそれぞれベルトの下にはさみこんだ。私が立ち上がると魔法使いはドアとは反対側の壁を手でこすった。壁は光って消え、アンダーワールドへの道が開けた。

「島の反対側にボートをつけてある。私の弟子がお前にどこへ行けばいいのかを教えてくれるだろう。お前がボートに乗り込んだあとはアンダーワールドからの奇跡がお前を運ぶだろう。」私は熱心に頷き、暗闇へと向かった。魔法使いの手が咄嗟に伸びて、私の肩をつかんだ。「私は約束を果たした。ジョン。」彼はそう囁いた後、私を解放した。「お前の約束も果たしてくれるものと信じている。」

私は船の外へ出た。私は魔法使いに約束を守ることを伝えようと振り向いたが、背後を壁が覆い尽くしてしまった。湖の岸に近づくと夢で見た女性が私を待っていた。彼女は手を上げるとボートの待つであろう北の方角を指差した。

私は岩でごつごつした岸辺を駆け足で移動しながら、自分の肩越しにアララト号を振り返った。私が逃げ出したことに気付いた様子もなく、ノスフェンターのぼんやりとした輪郭が私のキャビンの外に立っているのが見えた。私は岩の突出した場所に来たが、ボートはなかった。これはおそらく騙されたのだろうと北の方角を見ると、これもまた夢で見た、角と目のある骸骨がビーコンのように暗闇に静かに漂っていた。私は幻影に向かって駆け出した。それがボートの目印だと知っていたからだ。アララト号の方から悪態をつく声が聞こえた。間違いない。ノスフェンターが私が逃げ出したことに気付いたのだ。私は急いでもう一つの岩場をまわった。

骸骨は消えた。そこにボートはなかった。フォリーナとアスタロルだけがいた。

フォリーナ - 私の - フォリーナは、吟遊詩人を抱擁していた。彼女が泣きながら私の名前を囁くのを聞いた。彼女は目を見開き、私を見るなりその目は恐怖でいっぱいになった。

「ジョン。」彼女は息を飲んだ。

アスタロルは振り返り、彼の表情もまた恐怖と罪悪感に満ちたものだった。「船長-」彼は何か言いかけたが、私が猛り狂った獣のように飛び掛かり、無心に、無感覚に、宝珠の破片の一つを彼の喉に突き刺すと、彼の窮状は終わりを告げた。

彼の口は悲鳴を上げようと開かれた。しかし音がもれることはなく、ただ血が破片を濡らした。フォリーナは泣きながら湖へと転がり込んだ。背後から怒鳴り声がした。ノスフェンターが追い付き、私が振り向きざま彼は何年も前に私とフォリーナが贈った剣を振りかざした。

剣と二つ目の宝珠の破片は洞窟内に金属音を響かせて交差した。戦士の顔は破片から放たれる紫色の光に青ざめ、一瞬の躊躇いを私は見逃さず、彼の腹部に破片を突き刺した。

ノスフェンターは膝からくずおれ、信じられないといった目で私を見上げた。彼は破片を取り出そうとしたが、彼の指が破片に触れるとそれは振動し、自らをより腹部深くへと埋め込むのだった。彼の苦悶の叫びがアンダーワールドの暗闇を突き抜け、私の中にあった暗闇を押しのけた。

「ノスフェンター。」私は囁いた。「私は何をしたんだ?」

腹部に食いこんだ破片が再び振動し、彼は叫んだ。それでもなお、彼は膝を立てたまま、倒れまいとしていた。「一つ頼みがある。ジョン。」彼は血にまみれた息の合間に言った。「もう終わらせてくれ。」

私は頷き、涙が頬を伝った。私は最後の破片を振りかざした。

「ジョン! やめて!」

私が破片を振り下ろしたまさにその時、フォリーナが戦士の前に飛び込んだ。沈黙が続き、私の愛しい人が胸に破片を抱いて湖に倒れ込むと同時に、やわらかな水の音がした。ノスフェンターは彼女を見下ろし、そして私を見上げた。「彼女はお前さんだけを愛していたんだぜ。ジョン。」彼は言った。重々しいため息を最後に、彼は私の前にくずれ落ちた。

* * *

私は何時間もの間、亡くなった仲間たちの傍らに座り込んでいた。もっとも、時間は止まっていたのかも知れないが。私は湖面がクリスタルの破片の光を反射して輝くのをじっと見ていた。

その間私がずっと握っていたのはフォリーナの手だったと記憶している。

そして最初に新しい命の鼓動が感じられたのもまた、彼女の手だった。

私の仲間たちにそれぞれ埋め込まれた破片が突然燃え上がった。それらがまばゆい光とともに脈打つ間、放出された光は亡骸の上に輝く血管のように広がった。亡骸の肉の裂け目は広がり、目の眩むような光が放出された。

それぞれの体から、光に満ちた子宮から、何かが、影のようなものが生まれた。

破片から放たれる光が弱まると、彼らは私の前に立った。漆黒のローブに身を包んだ三つの存在、その目の中には私の友人たちの血がたぎっていた。

一人が手を挙げ、辺りに闇が垂れこめた。銀の矢が彼の指先に結晶した。

矢が私の胸を射抜き、私は自ら手をかけたものたちの仲間入りを果たしたのだった。

CHAPTER 5

隔絶

9/23/137

湖の岸辺に横たわったままの状態で、私は目覚めた。私の友人たちの屍と、クリスタルの破片はどこへか消えてしまっていた。

胸に刺さっていた矢はなくなっていた。傷も癒えていた。

私はノスフェンターの剣で己の苦しみを終わらせようとした。

しかし亡霊たちが – 私を死なせようとはしないのだ。

* * *

10/5/137

亡霊たちは去った。

私はほとんど食べることもしなかった。何時間もこの島の岸辺をしばしば放浪した。時折友人たちと出会うことを想像する。彼らはキャンプファイアを囲んで座っている。「ジョン、こっちよ。」フォリーナが言い、彼女の隣の地面を叩く。「来いよ。」ノスフェンターとアスタロルも頷く。私は彼らと共に座り、語り、笑い、食べて飲む。彼らが消えてなくなり、アンダーワールドに自分一人が取り残されるまで。彼らが居なくなってもまだなお、私は一人でしゃべり続ける。泣き出してしまうまでは。

友よ、すまない。

すまなかった。

* * *

10/11/137

彼らは戻って来た。

彼らがキャビンの壁から現れ出た時、私は夕食を摂っていた。彼らは何をするでもなく、ただずっと私が食べる様を見ていた。ついに、私がたまらず叫び出し、去るように懇願するまで。彼らが立ち去らない時は、私は膝をついて懇願した。

彼らは何も言わずに暗闇に消えて行った。

* * *

10/20/137

亡霊たちが。私を苦しめる。

夜毎彼らは私に景色を見せる。

ブリテイン、ジェローム、ムーングロウ – 亡霊たちはこれらの街で彼らが浸透させ始めた悪を、ブリタニアの民の中に入り込ませた闇を私に見せる。誰一人として、ブラックソーン王当人ですらも、彼らの目的には気付くことはなかった。夜毎王が眠りに落ちると彼らは王を観察し、王の夢を蝕み、王の恐れと野望を育むのだ。

ああ、フォリーナ……

私は何をしてしまったのだ?

* * *

10/22/137

なんてことだ畜生……

私はお前の名前を知っている。

お前は最初に私の友人たちを奪った。そして今、お前は彼らの名を奪い、汚している。

畜生め。

* * *

10/24/137

スーテックは今日戻って来た。私は泣きながらすべてを話した。

運命が彼を許さんことを……

彼は私を許した。

* * *

「そこには彼ら三人を覆う暗闇がある。」スーテックは言った。彼は私宛に書いたあの巻物を読んでいた。「そんな言葉は書いていないし、見当たらんよ。」彼は巻物を寄越した。その言葉は本当に、もはやそこには存在せず、そこにあるのは見覚えのない言葉だけだった。「イリュージョン。」魔法使いは続けた。彼は立ち去った当時よりも、さらに年を取ったように見えた。彼の口髭はからまったまま固まり、ローブは灰色に煤けていた。「宝珠の破片があなたの狂気を深めたのだ。」

「あの夢は? モンディンの、ミナックスの、そしてエクソダスの。」思わず三悪の名が口をついて出た時、自分を貫いた戦慄を私はどうすることもできなかった。

「同じことだ。」スーテックは答えた。「モンディンの宝珠は彼の力の源だった。彼の不死に必要不可欠なものだった。それ故魔法使いたちの中には宝珠が自ら魂を生み出すと考える者がいるのだろう。あるいは宝珠がモンディンの魂の一部を内包しているのだとも。しかし本当のところは誰にもわからない。いずれにせよ、宝珠が破壊されなかったことだけは確かなのだ。それは粉砕されただけで、その欠片はボイドに衝突し、永遠に封印されただけなのだよ。」

「何が永遠たるべきだったのだ。」私はつぶやいた。「それがコデックスでないならば。」

「その通りだ。」スーテックは同意した。「私たちの魔法はおそらくブリタニアと破片が封印されていたボイドの一部分との間にあったバリアを弱めたのだ。それは破片が封印を解いて逃れるために十分だったはずだ。」魔法使いは私を凝視した。「そして彼らはあなたを見つけた。彼らはあなたとあなたの仲間たちをアンダーワールドへいざなった。彼らははるか遠い昔にモンディンが父親から盗んだ宝珠を腐敗させたのと同じようにして、あなたを滅ぼした。」

ふたたびスーテックが口を開くまで、長いこと私たちは押し黙ったままだった。「私は地表への出口を見つけた。南東にデスパイスと呼ばれるダンジョンへの入り口がある。啓発の時代(The Age of Enlightenment)以前にうち捨てられた鉱山の迷宮だ。下層階にある通路を見て来たが、あともう少しの探索でブリタニアへの出口を見つけることができるだろう。」

どのような宣告もこのような希望と絶望を同時に生み出すことはできないだろう。そこにはブリタニアに戻る方法があり、自分が行くことは決して叶わないのだ。「もし私がいっしょに行けば」私は言った。「彼らは私たちを見つけるだろう。私と話をするだけでも、あなたは自らの命とブリタニアの希望を脅かすことになる。」

スーテックは荷物を背負いざま頷いた。「会えて良かった。船長。」魔法使いは言った。「早く行け。」私は促した。「できるだけこの場所を避けるんだ。大評議会にブリタニアの危機について警告してくれ。」

スーテックは重いため息をもらした。「もう遅すぎやしないかと思ってね。私たちがここに来て以来、大評議会ではすでに2つの会合が行われた。アンダーワールドについても決定がなかったとは言えない。」

「ではあなたはこの亡霊たちを止める方法を探らねばならない。」私は言った。私はアララト号に戻って以来、初めて微笑むことができた。「あなたは愚か者だけが自らの運命を避けようとすると言った。星があなたに語り掛けたことを覚えているだろう、スーテック。自らを隔絶するんだ。必要があるなら隠れるんだ。そして邪悪なる者たちを滅ぼす手立てが見つかるまで、決して見つかってはならない。」

私たちはボートのある岸まで歩いた。魔法使いは波に船を誘導させ、暗闇はゆっくりと黒い霧のように彼を包んだ。

私は彼が呪文を詠唱したのだと思ったが、上部から淡い光が降り注いでいるのだと理解した。私は素早く見上げ、そしてふたたび、慣れ親しんだ星明りの空に祝福されたのだ。トランメルが地平線近く揺蕩っており、魔法使いと彼の乗る船を浮かび上がらせていた。

「あなたの運命もよく覚えておくんだ。ジョン船長。」スーテックが呼びかけた。「自らの運命を知ろうとする者は賢明だ、しかし、それを変える方法を見出そうとする者はそれに勝る。」

彼が話すと天空が燃え上がった。三つのまばゆいオーブが、彗星が、星々の間を縫い、軌跡を描きながら通り過ぎて行った。次第に、彼らも、月も、星も消えて行った。魔法使いと彼を乗せたボートも私の視界から消え、アンダーワールドでの終わりのない夜に紛れ込みながら、私は人生最後のブリタニアの空を見たのだ。

* * *

11/26/137

得体の知れない恐怖がブリタニアを支配しつつあったが、誰も理由を説明できなかった。ある者は怯えながら悪夢とその中に現れたシャドウロードと呼ばれる亡霊について話した。

私はロード・ブリティッシュが、彼の秘書官が、6人の騎士たちが、夜が明ける頃アンダーワールドへ入ることを知っていた。

私はシャドウロードの計画に気づいていた。

私はスーテックが無事で彼らを亡き者にしてくれることを祈る。

祈っている。

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「今朝亡霊たちがやって来た。それは三人いた。彼らは石を通り抜けて来た。彼らの闇は彼らが生み出した闇に勝り……彼らは我らが王を連れ去った。私には止める力はなかった。私たちの誰一人としてそのような力はないのではないかと恐れている。」

–ロード・ブリティッシュの探検隊の王室秘書官リモー卿の最後の報告より。
12/1/137

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THE END

見るなのタブー

2016年2月15日

よくある話。異類婚姻譚とかその類。
キューピッドは人間であるプシュケーとどうしても結婚したくって、夜だけ睦みに来てたんだっけ。でも我慢できなくなったプシュケーがとうとう明かりを点けて顔を見てしまって、なぜ僕の愛を信じられないんだい?と言ってキューピッドは去ってしまう。そこで終わらないのがギリシア神話のいいところで、プシュケーは追いかけてってすったもんだの末またキューピッドと結ばれるんじゃなかったっけ。

「シュリ」って韓国映画。
お腹に子どもがいたのに自分が北の諜報機関の女だって最後まで言わずに南の警官だかの彼氏に撃たれて死ぬんだよね。なんか泣ける。

むかーし見た洋画だかドラマだかの1シーン。
題名もストーリーも忘れちゃったけど、日本美人になりすまして旦那さんに近づくまではいいんだけど、思いがけず旦那さんが夜這いをしてきて、ふとんを被ってそんなことをしたらハラキリする~!と必死で叫んで追い返す外人女の画。その後奥さんは中身は自分なんだけど、旦那さんの不貞を招いてしまったことに悶々とし……とかなんでこんなのを突然思い出すんだろう。

どの話も違うようでいて、何らかの事情があって素性や真実を明かせないというところは共通している。私は人一倍好奇心が旺盛なのでなんでも根掘り葉掘り聞いてしまう癖があるけれど、UOでプレイしていてファンタジーの中で生きる人たちに対してあまりリアルに踏み込んだりしちゃいけないんだってことは学んだ。ハッピーエンドならばいいけれど、決して良い結果を生まないことも多い。それと見るなのタブーは違うのかもしれないけど、相手だけでなく自分も相手の世界観を壊さないために、自分のリアルはさらさないのがルールだよね。気づくのが遅すぎたけど。

まー、こう書くとロマンチックだけど、要は自分がタイミングを逃したり、ナイショキャラを量産しすぎて全員中の人はいっしょですって言うに言えなくなっちゃってるだけだったりします。

桜をどげんかせんといかん。

2015年12月6日

タイトルもアレですが、内容はさらにカオスです。
掃除機を買いに行ったつもりがうっかりニューPCまで購入してしまい、移行作業中につきたまったSSとネタを放出。

タイトルはあれです。
もう言わなくてもわかるでしょ!ボイドプールですよ!悔しいとか言ってるならお前が仕切れよ!という声もごもっともですが、なんというか世事に疎いというか、完全に攻略法が確立された今ものんびりマイペースなのが桜シャードのいいところでもあるわけで。世の中にはグレーなことってたくさんあるし、あえてファジーにしておくことで誰も傷つかないということは往々にしてあるのだということもちゃんとわかってはいるのです。年の功ってやつ。ただこういう思考のヤツとリアル仕事だけはいっしょにしたくない。
終了後のランキングSSを記念に貼っておきます。
UO(151121-222302-06)

UO(151121-222304-07)

UO(151121-222307-08)

次にUO Straticsが売りに出たというお話。やっぱりねー!としか思わないけど一応販売サイトのFlippaのリンクを貼っておきます。現在19入札、5,500ドルだそうですよー!

そしてパブ後にMLボスがやたら強くなってるって話ですけど、早速ドレッドに挑んで1被して来ました。他はわからないけど全然当たらないんだもん。聞けばレスリ130超えとかw バンプにはかなり堪えるバグ(?)だと思いますけど運営もベンサーだ、転送だ、とバグだらけでそれどころじゃないんでしょうね。あなたの忍耐に感謝されます。

そんなわけで何をやってるかっていうともっぱら海賊を狩ってます。いわゆる2垢ソロプレイってやつでもう一人の俺(弓戦士)をヒールしつつ大砲をぶっぱなすという。
UO(151107-115851-00)

船頭の話は本当につまんないけど海賊はなかなか面白いです。
UO(151107-120818-03)

あとは死体をまき散らしながらレアフィッシュハントしたりとか、
UO(151108-191329-14)

城カスタムしてます。Housing@UOさんを見てスタックオブジェを作ったり、試行錯誤しつつ中折れ階段を作ってみたり。見た目のバランスはともかく上りはOKでも下りで頭がつっかえたりとかいろいろするのでたぶんこの位置でないと1階部分の中折れ階段は難しいかと。
castle

個人的萌えポイント、オークの生酵母製カーペットのつぎはぎ。
castle_2

まだまだ増設工事中。これをデコツールで上げて、2階の床にするわけですが、他にいい方法があったら教えてほしーい!
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そんなわけでボッチプレイをちまちまと楽しんでおります。
日に日に寒くなって参りますが、皆さまお風邪など召しませぬよう、ご自愛くださいませー!