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好きで殺さない

2015年3月2日 月曜日

UOの現プロデューサーMesannaの名言 “I kill because I care!!” はCatskillsで彼女がイベントを行った際に出現した禍々しい色のネクロマンサーフルスペルブックによって一気に広まった。日本シャードでは13周年記念のフルーツバスケットとともにその和訳、「好きで殺してるのよ!」が広く認知されるに至った。

ところでこれはなぜこのような訳に落ち着いたのか。

映画字幕で広く名訳と言われているものの中には、原文に忠実とは言い難いものも多い。これはもう、言い尽くされていることだが高瀬鎮夫氏の「君の瞳に乾杯。」は原文を超えてしまってすらいる。一方、近年ではロード・オブ・ザ・リングで戸田奈津子氏が “You’re not yourself.” を「嘘をつくな。」と訳して物議を醸した例もある。正しくは「正気に戻って。」だそうだが、私はこれはこれでいいと思っている。物語には時間があり、紡ぐ文章には行間があるからだ。物語のほんの一部分を切り取って正誤を論ずることほど不毛なことはない。

さて、 “I kill because I care!!” であるが、 “I care” というのは少し耳慣れない英語だ。通常 “care” という単語は動詞であるから “I care for you” や “I care about you” というふうに使われる。どちらもだいたい「あなたを気にかけていますよ。」という意味だが、前者は恋人、後者は家族や友人と、相手によって使い分けるのが正しい。ただ、これの否定形である “I don’t care” は非常によく使われる。「知ったこっちゃない。」、もっと言えば「どうでもいい。」ということだ。

つまり、Mesannaは本当に好きで殺しているのか?と問われれば、答えはノーである。

文章としては“I kill because I care (about you)!!” が正しい。「あなたたちを気にかけているからこそ、殺すのよ!」ということであり、どうでもよければそもそも殺さない。

「好きで殺してるのよ!」が誤訳であるかどうかについてはコメントを差し控えるが、私はこれはこれで名訳だと思っている。少なくとも我々が彼女から受ける印象を、これほど的確に、リズミカルに表現した一文を私は他に知らない。